解説詳細
結節性硬化症(TSC)
1.どのような病気?
結節性硬化症 (tuberous sclerosis complex ; TSC)はプリングル病 (Pringle disease)とも呼ばれます。全身の病気で、皮膚、神経系、腎臓、肺、心臓、骨、眼などのいろいろなところに過誤腫と呼ばれる良性の腫瘍ができる病気です。以前は、顔面血管線維腫と呼ばれる頬の赤みを帯びた発疹(数ミリ程度盛り上がったニキビ様のもの)(図1)、てんかん、知的障害の3つの症状(3主徴)が揃うことで診断していました。しかし、診断技術が進歩し病気の理解が深まるにつれ、今では3主徴が揃う頻度は30%前後で少ないと認識されています。
全身の病気と言っても、一人の患者さんのすべての臓器に病変ができるわけではありません。一人一人違いがあります。また、生まれた時からすべての症状があるわけではありません。そのため診断は、結節性硬化症で認められる病変の組み合わせで診断します(この文章の最後に表1として掲載しています)。結節性硬化症に高頻度に認められる病変を大症状、もう少し頻度の低いものを小症状とします。各症状は結節性硬化症でなくても認められることがあるため、複数の症状を認める場合に結節性硬化症と診断します。例えば、大症状2つ、あるいは大症状1つ+小症状2つ、の場合には診断が確定します(表1)。また、各症状は問題になって目立ってくる年齢が異なっています(図2)。例えば、心臓の横紋筋腫は胎児期から新生児の頃に、乳幼児期にはてんかん発作や知的障害の合併、白斑(皮膚の白いあざ)も生まれた頃からあります。顔面の血管線維腫は幼稚園や学童期から出現し、徐々にふえてきます。20歳頃からは手や足の爪の下や上、周りに硬い線維腫(爪下線維腫)がでてくることがあります。腎臓の良性腫瘍(血管筋脂肪腫)は中学生から高校生頃の思春期頃に出現します。女性では20歳以降にリンパ脈管筋腫症(LAM)が起こる事があります。
結節性硬化症は、TSC1あるいはTSC2遺伝子の異常で起こり、遺伝する病気です。常染色体優性遺伝という遺伝形式を示します。男女差はありません。両親のどちらかが結節性硬化症であれば、生まれてくる子供は1/2の確率で病気になります。しかし、実際には、50-60%以上の患者さんでは親を検査しても結節性硬化症に高頻度に認められる症状が見つからず、親から遺伝して発症したとは考えられません。この場合は、親の精子あるいは卵子のTSC1あるいはTSC2遺伝子に突然変異が生じ、そのため子供が発病したと考えられます。このような場合を孤発例と言います。
2.どの位の患者さんがいるのか?
結節性硬化症の有病率には人種差や地域差は無いようで、人口7,000人に一人と考えられ、日本人全体で少なくとも15,000人はいると考えられています。出生約10,000人に1人の割合で生じると考えられています。
3.大人になってから注意しなくてはならない症状とその治療
多くの患者さんは、子供の頃から何らかの症状があり、小児期に診断されることが多いです。しかし、軽症の方は見過ごされがちで、成人になってから腎血管筋脂肪腫(腎AML)やリンパ脈管筋腫症(LAM)の症状を契機に結節性硬化症が明らかになる場合もあります。いずれにしても、思春期以降で問題になるのは腎臓と肺の病気、すなわち腎AMLとLAMです。
腎AMLは、大きさ4cm以上あるいは動脈瘤(径5mm以上)があると腫瘍内や腹腔内に出血するリスクが高くなります。また、とても大きくなると周囲臓器への圧迫症状がでてしまいますので、おおよそ年に1度は超音波検査やMRIで経過を評価する必要があります。LAMは、古くは結節性硬化症の数%に合併すると考えられていましたが、胸部CTによる画像診断が進歩したため診断される頻度が増加し、最近では結節性硬化症の女性の40%程度に合併すると考えられています。しかし、軽症の方が多いようです。
両疾患に関する詳細は、このホームページ内にある各々の病気の説明をご参照ください。