解説詳細
リンパ脈管筋腫症に対するシロリムスの有効性と安全性(MILES試験)(肩に番号のついた言葉は、用語解説が末尾にあります)
MILES試験では肺機能検査指標の一つである1秒量(FEV1)1の1年間の変化を主要評価項目とし、シロリムスの効果と安全性が検討されました。2006年より登録が開始されました。LAM患者111例(目標120例)がこの試験に参加を同意しましたが89名の方が適格と判断され、無作為にシロリムスを内服する群 (46例) と偽薬2を内服する群 (43例) に割り付けられました。試験期間中、シロリムスの投与量は2 mg/日(1日1回で内服)より開始し、血中トラフ値3が5~15 ng/mlになるよう調節されました。試験期間は2年間(1年間内服+その後の1年間は投薬を中止して観察)で、試験の主要評価項目は投与期間中のFEV1の変化率(傾き)でした。
最終評価では1年間にわたって投与継続が可能であった75例 (シロリムス群 41例、偽薬群 34例) の成績が検討されました。シロリムス群のFEV1変化率は1 ± 2 ml/月(平均±標準偏差)であり、偽薬群の -12 ± 2 ml/月と比較して悪化の程度が有意に少ない値でした(p<0.001)。また、投与開始1年後のFEV1の変化量は、偽薬群の -134 ± 182 mlに対し、シロリムス群では19 ± 124 mlと良好でした (p<0.001)。しかし、標準偏差が大きいことからおわかりのように、全例に有効であったわけではありません。投与開始前 (ベースライン) の肺機能より良くなった症例は、シロリムス群は46%、偽薬群は12%でした。その他の評価項目であった残気量 (偽薬群 vs. シロリムス群; -16 vs. 38 ml, p = 0.61)、拡散能 (-0.62 vs. -0.06 ml/mmHg/min, p = 0.38)、6分間歩行試験での歩行距離 (26 vs. 24 m, p = 0.99) 、等の変化量は投与前と1年後で有意な変化がありませんでした。一方、一部の生活の質(QOL)4に関する指標 (EuroQOL) は有意に改善し、血液中のVEGF-D値5も有意に減少しました(-14.81 vs. -1032 pg/ml)。
有害事象は、下痢や嘔気などの消化器症状、高脂血症、口内炎や紅班などの軽症のもので(grade 1~2)、1年間投与の安全性が示されました。しかし、実薬群の1例が心膜炎により心タンポナーデに進展しましたが、治療により回復したとされています。
投与終了後1年間の観察期間では、シロリムス群 (41例) の19例、偽薬群(34例) の18例が早期中止により除外され、最終的に1年間の観察期間が追跡されたのはそれぞれ14例と13例のみでした。2年目の薬剤中止期間の参加者数が減ってしまった影響が考慮されるものの、2年目の観察期間中のFEV1変化率はシロリムス群で-14 ± 3 ml/月、偽薬群は-8 ± 2 ml/月と同様に低下しました (p = 0.08) 。また、最終的に、投与終了してから1年後のFEV1の変化量は、ベースラインと比較し、シロリムス群で-150 ± 170 mlとプラセボ群の -180 ± 100 mlと差を認めませんでした。FVCも同様の傾向を示しました。一方、血清VEGF-D値は、シロリムス群では投与終了1年後の時点でも930 ± 461 pg/mlと低下したままでした。
用語解説
- 1秒量(FEV1)
最大限の努力をして一秒間に吐き出せる息の量。LAMでは病気の進行と共に、だんだん息が吐き出せなくなりFEV1が低下していきます。つまり、病気の進行度の指標の一つとして使われます。 - 偽薬
プラセボ、とも言います。実薬(あるいは治験薬)(MILES試験の場合にはシロリムス)と見分けはつかない薬剤ですが、有効成分(MILES試験の場合にはシロリムス)を含んでいない薬をいいます。 - 血中トラフ値
薬物の血中濃度が最も低くなった時の濃度を指します。すなわち、シロリムス内服直前に採血して血液中のシロリムス濃度を測定すると、トラフ値がわかります。 - 生活の質(Quality of life, QOL)
医療の進歩によりヒトは長生きできるようになりましたが、延命技術による生命の長さのみに注目するのではなく、「人間らしい生活や自分らしい生活を送り、人生に幸福を見出しているか」、「生きている状態の質」を重視し、何らかの尺度もうけて評価しようとする考え方から生まれた概念です。 - VEGF-D(vascular endothelial growth facter-D)
リンパ管内皮細胞を活発に増殖させてリンパ管をつくらせる蛋白質です。LAM細胞が産生・分泌します。重症のLAM患者さん、乳び漏やリンパ脈管筋腫、リンパ浮腫などのリンパ系機能障害による症状があるLAM患者さんでは高値であることが知られています。LAMの診断にも役立ち、血清VEGF-D値がおおよそ800~1200pg/ml以上であればLAMである可能性が高いとされています。