解説詳細

COPD(慢性閉塞性肺疾患)

慢性閉塞性肺疾患 COPD(chronic obstructive pulmonary disease)
-第二の人生に影を影を落とす肺の生活習慣病-

COPDって、どんな病気?

COPDは、たばこ煙に代表される有害なガスや粒子を慢性的に吸入することにより、肺に慢性的な炎症がおこるために生じる病気です。空気の通り道である気道やガス交換を行う肺胞が、長い間にゆっくりと破壊されて、症状が現れます。咳や喀痰、階段を上ると息切れを起こすなどの症状がでます。

一番の原因は、何といっても喫煙です。別名、「タバコ病」、「肺の生活習慣病」、などと呼ばれます。もちろん喫煙者すべてがCOPDに罹患するわけではありませんが、今のところ何が明暗を分けるかは解明されていません。人生で初めてたばこに火をつけた時、自分が果たしてどちらに入るのか、賭けにでているようなものです。

COPDは、通常、40歳以上の成人に診断されます。もっとも多くは60歳以降に診断されます。従って高齢者に多い病気と言われます。通常、20歳頃から喫煙をはじめ、炎症が持続して肺にゆっくりと、しかし、確実に変化が蓄積していきます。息切れが出始めるのは40歳以降としても、「運動不足のせい」、「歳のせい」、などと軽く見られがちです。なぜなら、階段や急いで歩いたりすると息切れがしても、少し休んで一息つけば楽になりますし、ジッとしている時は苦しくはありません。このため病気の症状とは思われにくいのです。ようやく病気を自覚するのは、加齢の影響で症状が強く現れはじめる60代以降です。一生懸命働いて、これから悠々自適に退職後の生活を送ろうかという矢先に、突如として息切れと咳や痰で日常生活を制限されてしまうのです。病気が重くなれば、「海で溺れるような息苦しさ」、と表現される程、つらい症状を経験します。酸素吸入も必要になります。ゴルフや旅行どころか、散歩もままならず、引きこもりがちになり、ストレスからうつ状態になることもあります。定年まで一所懸命に働いた結果がこれでは何ともやりきれない話です。COPDは、元気に老いて高齢化社会をイキイキと暮らすには、大敵の病気なのです。しかし、喘息、高血圧、糖尿病などの、頻度の高い慢性疾患にくらべ、一般の人の認知度は非常に低いのです。

COPDはどの位多いのか?

2008年の患者調査によると、国内の患者数は約22万人とされています。ただし、あくまで病院で診断された方の数であり、未診断の方を含めれば、日本の40歳以上の成人の8.5%、すなわち約530万人がCOPDであると推測されています。また、日本では、毎年、約15,000人くらいの方がCOPDで亡くなっています。

COPDを早期に診断するには?

つらい結末を避けるには、早期に診断し、早く禁煙することです。喫煙指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が400を超えると、COPDに限らず、肺癌、咽頭癌のリスクがぐっと上昇します。30~40代の喫煙者は直ちに禁煙するべきです。

40歳以上で、①長年喫煙している、長期間の喫煙歴がある、何らかの粉塵に曝露している、あるいは受動喫煙が続いている、などのヒトで、②慢性的な咳や痰がある、体動時に息切れがある、などの症状があるヒト、はCOPDを疑って、スパイロメトリー(肺機能検査)を受けることが必要です。スパイロメトリーは、息を吐き出す力を計測する検査で、同年代の健康なヒトの肺と比較した「肺年齢」もわかります。深く息を吸い込んだ後、できるだけ早く息を吐き出した最初の1秒間(FEV1という)に、努力性肺活量(FVCという)の70%以上を吐き切ることができれば正常、70%未満はCOPDが疑われます。FEV1/FVC<70%であれば、閉塞性換気障害(息を吐き出すのがむずかしい状況)があると言いWPDが疑われます。閉塞性換気障害をおこす他の病気(たとえば、気管支喘息は心不全、など)がなければ、COPDと診断します。COPD以外に閉塞性換気障害を起こす病気を除外するために、胸部レントゲン検査、胸部CT検査、スパイロメトリー以外の精密な肺機能検査、血液・尿検査、などが適宜、必要になります。

安定期のCOPDの治療

治療の基本は、なんと言っても禁煙です。喫煙はCOPD発症の最大の危険因子です。喫煙は個人の嗜好ではなく、たばこ煙に含まれるニコチンによるニコチン依存症という病気なのです。この点が、まだまだ十分に世の中に理解されていないことが大きな問題です。医療関係者でも、「喫煙はニコチン依存症という病気、喫煙者はニコチン依存症という病気の患者である」、ことをしっかりと心に据えて取り組むヒトが少ないのが実情です。ニコチン依存症のため慢性的に喫煙し、知らず知らずのうちに肺の傷害が進行しCOPDになってしまうことを禁煙して予防することが大切です。COPDになってしまってからでも、もちろん禁煙は大切で、以下に述べるような薬物治療、呼吸リハビリテーションなどの非薬物療法の効果を最大限に引き出してくれます。

薬物治療では気管支拡張剤の吸入により、できるだけ息をスムースに吐き出せるようにします。代表的な気管支拡張薬には、抗コリン薬、β2刺激薬、テオフィリンなどがありますが、COPDの患者さんでは、抗コリン薬吸入のほうが効果は強いようです。一種類で自覚症状の改善が不十分であれば、β2刺激薬、テオフィリン、等を順次、追加します。気管支拡張薬により、息切れなどの症状が軽減し、生活の質も向上し、増悪(ぞうあく)も減ることが報告されています。増悪を繰り返す方では、吸入ステロイドも使います。室内気の吸入では十分な動脈血酸素分圧を維持できない場合には在宅酸素療法が必要になります。

呼吸リハビリテーションでは、病気の理解、栄養管理、呼吸法(腹式呼吸や口すぼめ呼吸)を修得する、パニックへの対処法を学ぶ、胸郭の柔軟性を高める、呼吸筋や下肢筋力を高める、などを一定の期間内で学びます。施設によって違いがありますが、入院と外来のどちらでも行えるプログラムがあります。呼吸リハリテーションにより自覚症状が軽減し、生活の質が向上します。プログラム修了後も。学んだことを自宅で継続していくことが大切です。

COPDの治療で大切な事は、残念ながら、治療をしても息切れは消失しないことです。息切れが軽くなって、いままでよりも活動度があがる、歩ける距離が伸びる(息切れで一休みするまでの距離が伸びる)、などが治療効果です。活動度が上がることで生活の質がよくなります。「息切れがなくならない、健康なときのような呼吸ができないので薬が効いていない」、とは思わないでください。

COPDと気胸

気胸は若くて痩せ形、背丈の大きなヒトの病気と思われがちです。実際に20歳代の若年者に発症のピークがありますが、もう一つ、60歳代以降の高齢者にも発症のピークがあります。それは、COPD、間質性肺炎、肺癌、などの肺の基礎疾患に基づいて起こる続発性気胸のためです。COPDは高齢者気胸の原因疾患としても重要です。COPDは、慢性的な肺の炎症により、肺実質は破壊されて肺気腫があちこちに存在し、重症なCOPDでは肺はとても脆弱になっています。基礎疾患があるため、肺機能も低下しています。高齢者であることに加え、心臓病、糖尿病、動脈硬化、等の様々な肺以外の基礎疾患をもち、手術そのものもリスクを伴います。手術中の麻酔管理も難しくなります。若者の気胸手術と同等に安全であるとはいえません。栄養状態の面でも、高齢者は十分ではない場合が多いでしょう。なかなか気漏(空気の漏れ)がなくならない場合には、諸条件を検討して可能であるならば、胸腔鏡手術により、病巣の切除縫合ならびに臓側胸膜補強術を目指すことになります。しかし、心・肺機能や合併症により手術ができない場合には、①胸腔造影によりリーク部位を同定し、透視下にフィブリン糊で閉鎖する、②自己血、薬剤による胸膜癒着術、③気漏部位を支配する気道を塞栓子(固形シリコン)で閉塞する、等の様々な工夫がなされます。

中年期が分かれ道!あなたのCOPD危険度は?

1 □ タバコを吸っている、あるいは吸っていた(受動喫煙を含む)
2 □ 1日の喫煙本数×喫煙年数が400以上である(あった)
3 □ 咳・痰がある
4 □ 風邪を引くと、一時的に咳や痰がひどくなる
5 □ 朝、通勤通学を急ぐ人の流れについていけない
6 □ 階段や坂道を上るとき、同僚に追い越される、ついていけない
7 □ 配偶者とウォーキングをすると、自分が音を上げる

1. 2にチェックが入った場合は、まずスパイロ検査を受けること
1. 2に加えて、3以降にチェックが入った場合はCOPD予備軍の疑いがある
1. 2にチェックが入らず、3以降にチェックが入った場合は、COPD以外の疾患の可能性がある

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