解説詳細

月経随伴性気胸

女性の気胸には大きく分けて原発性気胸と続発性気胸があり後者には月経随伴性気胸やリンパ脈管筋腫症など女性特有の疾患が挙げられます。 ここでは、月経随伴性気胸をとりあげましょう。 月経随伴性気胸は子宮内膜症が原因で起こるため、現在では異所性子宮内膜症のなかで胸郭子宮内膜症と呼ばれるようになっています。すなわち、子宮内膜組織が腹腔内や血管を介して胸腔(肺、横隔膜、胸壁)に到達して生着し増殖し、それによって月経時に気胸が発症します。あるいは胸痛や喀血の場合もあります。婦人科の子宮内膜症が増加しているため胸郭子宮内膜症も増加していると考えられます。年齢は二十代後半から閉経までの女性に起こりますが、一番多いのは30代から40代前半です。

診断

(1) 診断には臨床症状が重要

90%が生理の前日から生理開始後2日以内におこります。希に排卵期におこる場合もあります。通常の気胸も月経時に起こることもあり、鑑別がむずかしいこともあります。
右の気胸しか起こらないと言っていいでしょう。左の気胸の場合は月経随伴性ではない可能性が高いです。

(2) 局所麻酔下胸腔鏡検査

確定診断をするには、この胸腔鏡検査が必要です。横隔膜に子宮内膜組織を認めればこの病気と診断がつきます。横隔膜の子宮内膜組織の胸腔鏡写真を載せておきます。私たちは、この病変を大きく格子型、裂孔型、血腫型、混合型に分類 しています。多くは混在型で認められます。 写真は裂孔型のものです。(写真1:一部に瘢痕や血腫もあります。)

写真1
写真2

肺や胸壁にも子宮内膜が生着することもあります。肺で増殖した子宮内膜組織を写真2として載せます。

(3) CA125を測定する。

血液中で高値であれば子宮内膜組織が体内のどこかに存在することになり、胸水や胸腔洗浄液中のCA125も高値を示します。

(4) 婦人科での検査

元の原因は骨盤内の子宮内膜症が原因ですので婦人科で内診検査、超音波検査などを受けます。しかし、婦人科的には軽症でも胸郭内の子宮内膜組織が重症の場合もあります。必ずしも相関していません。

治療

手術をしない方法としてホルモン療法があります。これにはGnRHアゴニストと呼ばれる薬があります。これは月経周期を止めて子宮内膜を衰退させてしまう治療法ですが、骨粗鬆症や骨粗鬆症や更年期症状などが副作用としてありますし、薬を中止すると月経がはじまり再び気胸が起こってしまうことが多いことも知っておきましょう。そのほか低用量ピルを投与する方法もありますが、私どもの経験では効果は期待出来ません。胸膜癒着術もありますが、この治療では原因である子宮内膜組織を切除していないので再発が起こりえます。

手術としては横隔膜切除を行います。現在では胸腔鏡手術で可能となっています。手術で大切なことは病変を見落とさずに切除することです。肺や胸壁も十分観察して切除することです。その際、自動縫合器による切除は見落としや再発が多いので、胸腔鏡下の手縫いで行うことが大切です(写真3)その他、ホルモンの産生を抑えるために卵巣摘出術がありますが、現在はほとんど行われていません。

写真3
写真4

最終的な診断は、病理組織検査を行って判断します。子宮内膜組織の出血像や腺組織、間質組織を証明することが出来ます(写真4)。

月経随伴性気胸の不思議

月経随伴性気胸は、全容が解明されている訳ではありません。子宮全摘術を受けた患者でもおこる場合があります。また、なぜ右側だけにおこるのかも解明されていません。空気の流入経路は経卵管的に入ると言われていますが、卵管や子宮を切除した患者さんでもおこりうること、腹腔経路で入るのを確認できることはまれです。手術やホルモン治療の成績は必ずしも良くないことから、もっともっと 研究がなされてゆく必要があります。そうしたことから、患者さんから「医師によって説明が違う、何を信じてよいか分からない」との意見が多いのも事実ですので、一人の医師だけでなく複数の医師の説明を聞いてから治療法を決めるのが良いと考えています。